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秩父宮でラグビーを観る幸福と失われてしまったもの

随分と久しぶりにラグビーを観ることになった。
しがらみでチケットを手に入れた妻に、TVの副音声よろしく、やさしい初心者向け解説をリアルタイムで行うことになったからだ。
最後に生で観戦したのは、怪我人が出ない限りフィールド上には15番までの背番号しか見当たらず、ジャージがスポンサーロゴで汚されてサッカーのソレと見分けがつかなくなる前の頃だ。
普段は、アレコレ理由をつけて逃げおおせるところだが、今回は行ってみたくなる理由があった。

秩父宮ラグビー場 で行われるというのが、その唯一の理由。

専用競技場で、その専用のスポーツを観ることほど、臨場感をもって楽しめることはない。
普段、東京ドームという薄暗く余白だらけの場所でフットボールを見ている人間には、とても魅力的な申し出に思えたからだ。
いつの間にやら、東京ドームはフットボールのフランチャイズみたいな扱いになっているが、ソコでソレを観ることほどせつないものはない。
どんな季節、どんな時間帯でも、エアコンと照明によって一定に調整されたフィールドでは、プレイも観客席の反応も単調。
観客席から遠いフィールドの臨場感は味わいにくく、結局オーロラビジョンに頼らざるを得なくなる。
唯一、観客席まで届く衝撃音は深刻な負傷を伴う事が多く、楽しむという感情とは、これまた程遠くなる。
観戦で味わうべき観客席の臨場感もチアスティックに抹殺されて、どんなプレイが行われても、歓声や拍手の代わりに「ボンボンボンボン」と空気を孕んだソレがなるばかり。
今や、ほとんどのチームが持っているチアリーダーも、バリエーションの少ないただのダンスチームに成り下がっている。
フットボールを見に行くわけではなく、会社の組織図に引きずられてくる会社員たちは、相手の反則の時にしか大きな歓声をあげることはない。

これとは対極のところに秩父宮ラグビー場はあったはずだ。
そうした昔の記憶を頼りに、重い腰をあげることになった。

皇族 の名前が付けられ、古めかしい銅像に迎えられるソコは、行くだけでも価値がある。
水道橋のジェットコースターの延長のような商業施設とは一線を画した重みが感じられる。
真横にそびえ立つ伊藤忠の本社は、日本代表が初めてスコットランドに勝った時、その前日のスコットランドの非公開練習を当時の宿澤広朗 監督がスパイするために使われたもの。
確かに絶好のスポッター席と呼べるロケーションだ。
余白のない専用のフィールドは観客をフィールドに巻き込み、時折観客席に飛び込んでくる活きの良いスパイラルのかかったパントが、より一層臨場感を高めてくれる。
東京ドームで観るフットボールは出来の悪いCG映画のようだが、ココで観るラグビーは舞台演劇のようだ。
季節も天候も時間帯もまるごと影響を受けるソコでは、今この瞬間にセカイに参加していることを実感することが出来る。
観客席で飲むビールすら、ひと味違って感じられる。
いや、一年中ビールを飲まなきゃいけない東京ドームと違い、ここでは然るべき季節には、温かい飲み物を飲む楽しみもあるだろう、ブランケットにくるまりながら。

こうしてすっかりスポーツ観戦の本来の醍醐味を思い出すことが出来た。
ただしかし、存在していたはずの大事なものも、失われてしまっていた。

その昔、ここでは「拍手」と「歓声」と「ため息」しか聞くことが出来なかった。
どちらのサイドか、どのチームかにかかわらず、よいプレイに対しての「拍手」。
素晴らしいプレイに対しての「歓声」。
素晴らしいプレイが成就できなかったミスへの「ため息」。
それらはすっかり消え失せてしまい、別のものに取って代わられていた。

別のものとは、ミスした知り合いへの「ヤジ」。
相手チームの反則への「拍手」。
企業名を連呼する都市対抗野球大会のような応援。
短パンにビーサンの「会社員」がそうした雑音を放っている。
悪くてもカジュアル止まりの「観客」は見当たらなくなってしまった。

もちろん、フィールドの中でも失われてしまったものがある。
確信犯的にラフプレイをしておきながら、ペナルティをとったレフリーにニヤニヤしながら首をふって抗議をあらわすような選手に取って代わられているようだ。

サッカーは、野蛮人がやる紳士的なスポーツ。
ラグビーは、紳士がやる野蛮なスポーツ。
フットボールは、野蛮人がやる野蛮なスポーツ。

出典は覚えていないが、昔、このような名言を耳にした。
しかしどうやら、今では野蛮なスポーツに身を投じる紳士は絶滅してしまったようだ。
紳士は、別な場所で別なことをしているらしい。
もっとも、このセカイにまだ紳士というものが存在していればの話だが。

日本ラグビーフットボール協会 は、秩父宮ラグビー場に慄然と残された和式トイレの改修と合わせて、アレコレの改修に手を付けるべきではないだろうか。
もっとも、僕の知らない新しいラグビーを続けていく気なら、その限りではない。

そして、日本アメリカンフットボール協会 は、本当のフランチャイズとしての専用競技場を建設するべきだろう。
水道橋のジェットコースターの延長や、拾い物の川崎球場などではなく。

Filed under: 独白

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「タフでクールで そしてヒューマンタッチ」Reblogger in Tokyo

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