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機動戦士ガンダムUC 見た人のためのレビュー(1)「空っぽの箱に過ぎた呪い」

開いてしまえば、ラプラスの箱は、空っぽも同然だった。
オットー・ミタスが「たったそれだけのことで!」と驚いたのも当然だ。
それは宇宙憲章のたった一つの条文にすぎなかった。

「宇宙に適応した人類が誕生した場合、彼等を政府活動に参画させる事」

このたった一つの条文を巡る争いに、多くの人々はその生命を奪われることになった。
その多くは、箱の中身を知ることもなく。

箱は中身自体ではその価値を持たない。
しかし封印という行為自体が、箱に重みと呪いを与えることになった。

西暦という長いしがらみを捨て去って、いよいよ宇宙世紀に漕ぎ出そうとした人類は、ネクストセンチュリーに希望を抱き、祈りを捧げた。
その祈りこそ、削除された条文だ。
新人類などは絵空事に過ぎず、ニュータイプなどという言葉も概念もなかった頃、「宇宙に適した人類」とは地球の地理的、民族的、宗教的なしがらみを持たない宇宙的な視点をもって思考できる優秀な人材と思われる。
そうした、強力な拘束力を持たないただのネクストセンチュリーへの祈りは、旧世紀の怯えによって吹き飛ばされた。
しかも、そうした旧世紀の人々にもっとも相応しい暗殺という手段によって。
自らは宇宙に漕ぎ出さず、下民を捨てたつもりでいる1%クラブの面々が、営々と受け継いできた権力を、将来、99%クラブの誰かさんに取り上げられる可能性など見過ごせるはずもない。
良くも悪くも変化に抵抗する人間の特性は、既得権益を失いかねない場面で、その怯えによって強烈にエネルギーを発揮する。
連邦政府初代首相リカルド・マーセナスの暗殺など、一秒たりともとまどうことなどなかっただろう。
しかし、皮肉にも自らのその行いが、99%の中でも食い詰めものであったサイアム・ビストに力を与え、ビスト財団という新たな力に道を譲ることになってしまった。
封印された事実は、時間が経過するだけで、勝手に熟成し深みを増し、アンタッチャブルになっていく。
さらに時間の経過以外にも、いよいよ箱を開くことが出来ない状況が芽生えていく。

ジオン・ダイクンという男がニュータイプ説を唱え始めた。
まだその存在は確認できないものの、彼が唱えている存在は「宇宙に適した人類」そのものだ。
そして始まった一年戦争で、人々は、とても常人とは言えない戦果を上げるパイロットに遭遇する。
研究の進んでいるジオンに所属しているパイロットならば、なんらかの改造が施された人間であるのかもしれない。
しかし、「白い悪魔」と恐れられるあの小僧は、たまたまガンダムに乗り合わせただけの民間人で、ニュータイプなど認知もされていない連邦軍では、改造を加える知見など存在するはずもない。
その「白い悪魔」は、誰も歯が立たなかった「赤い彗星」を複数回撃墜し、研究所によってチューンナップされたニュータイプも葬った。
そしてあろうことか、その「白い悪魔」はただ一機のモビルスーツで、小惑星さえも弾き飛ばしてしまった。
原因不明の発光現象とともに。

こうして、箱を封印した人々は、自らが削除した条文の重みをあらためて感じることになる。
あの条文が公開されれば、エスパーとはいえないくとも、明らかに今までの人類とは異なる彼らに支配されるようになる。
これまで支配層であった我々が、支配される側に回る訳にはいかない。
こうして、封印した事自体が最大の秘密であったラプラスの箱は、はじめて箱の中身そのものがタブーとなった。

マーサ・ビスト・カーバインはもう1%クラブのメンバーなのだ。
宇宙世紀からの成り上がりの家とはいえ、そこからもう100年近く。
3世代目の彼女には、成り上がり者のコンプレックスは微塵もない。
だから、現在力を持つものとして、その力を失う可能性のある箱の開封など見過ごせるはずもない。
だから手に入れられないのなら、消し去ってしまえばいい。
極めて単純な論理は、宇宙憲章を吹き飛ばしてすり替えた者たちと一ミリの誤差もない。
連邦軍の秘匿していたソーラレイでコロニーごと吹き飛ばすという事実は、ラプラスの箱亡き後、新たな呪いの箱としての役割を担ってくれるはずだ。
だからもう手に入らなくても構わない。
いやむしろ、手に入らない方がいい。
それよりも新たな共犯の事実を生む方が、フレッシュな呪いをかけることができる。

しかしその呪いは虹色の希望にかき消された。
箱を封印した張本人に箱の行く末を委ねられた若者は、新たな呪いを拒み、これまでの呪いをも吹き飛ばした。
そしてその若者が放つ虹色の光は、「赤い彗星」が地球にぶつけようとしたありったけの絶望を弾き飛ばした光、あの「白い悪魔」が放ったあたたかい光にそっくりだった。

宇宙世紀を迎えて100年。
空っぽの箱は、過ぎた呪縛から解放された。
そして人類は、本物のネクストセンチュリーの元年をようやっと迎えることになったのだ。

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