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『007 スカイフォール』見た人のためのレビュー(2) M編 「鉄の女の系譜」

「人命に代えてでも我が英国領土を守らなければならない。」

と戦争を吹っかけて勝利をもぎ取った女は、つい最近息を引き取った。
人命なんかよりも重たいものはいくらでもあると、最近ではなかなか口にできない本当のことを人前で言い放って憚らなかった。
敵国が皮肉交じりにつけた「鉄の女」という蔑んだ呼び名を、自分のキャッチフレーズに上手に転化させる懐の深さとしたたかさを持っていた。

しかし、そうした「鉄の女」の素養は、サッチャーだけのものではなかった。

どうやら、こちらの帝国には、そうした女を排出する土壌があるらしい。

「彼女のM」も、目的のためには犠牲を厭わなかった。
人命なんかより遥かに重いもののために、状況を進める判断を間髪入れずに行なっていた。

思えば「彼女のM」は、前任者よりも遥かに現場に顔を出していた。

パイプを燻らせながら、ご自慢のマホガニーと思しきデスクでどっかりと007の報告を待つ男のMではなかった。
リアルタイムに状況報告を受け判断を下し、重要な尋問は自ら現場に赴いて自らの手で実施しようとする。
どんな状況が発生しようとも、投げ出さず自らの判断で解決することをよしとする。
犠牲を伴う判断こそ自らで行うべきという自尊心を持っている。

だから、新Mマロリーの優しさともいうべき爵位付きの引退勧告など到底受け入れられない。
自分のミスで大勢の部下が生命の危機に晒されて行くという状況が未だに終わっていないのに。
たとえ、これまでの功績が汚れようと、また非情な判断を下さざる場面に出くわそうと、そこに自分の判断がなければならない。
自分の手で終わらせなければならない。

まさしく例のブルドッグのように一度噛み付いたら離さないのだ。
チャーチルよろしく下顎を突き出しながら前進し続けるのみ。

連想テストで「M」と問われたボンドは「ビッチ」と間髪入れず即答する。
思わず顔色をうかがう新Mマロリーとタナーを尻目に、彼女自身は眉ひとつ上げない。
そんなことより、今の状況をボンドが終わらせてくれるチカラを持っているかだけにしか興味が無い。
だからMI6の能力テストなんかより、自分の判断を優先する。
能力不足はエージェント自身の死を意味するが、死んでも構わない。
状況さえ解決すれば。
そしてそれこそが、エージェント自身の本懐であることも知っている。
そこには、人命最優先でなどという表面的な価値観ではない、もっと深い価値観の共有がある。
だから、ボンドは撃たれたことの生命へのリスクでは一切Mに抗議はしていない。
彼が抗議したのは一点だけ。
「何故あのまま自分に状況を任せてくれなかったのか?」
そう、死んだって構わない。
ただ、あの場面では自分が状況を終わらせることが出来たはずだ。
しかも、最善のカタチで。
なぜ、自分のダブルオーエージェントを信じないのだ!とボンドは責めているのだ。

まるで女王陛下と騎士の契約だ。
騎士は自らの命よりも遥かに重たいもののために、自分の命を投げうつのだ。

今回の状況が解決すれば引退を選んでいただろうか?

いや、そんなことはない。

他にも未解決で状況継続中のモノは、いくらでも残っているはず。
それらほっぽり出して、彼女が自ら引退するとは考えられない。
たとえ、自らも長すぎるこの職務への葛藤を抱えていたとしても。
そう、ボンドに指摘されるまでもなく。

シルヴァはこの業界でココロをなくすことを実感し、自分より長く業界にいるMも解放してあげたかったのではなかろうか?
ボンドも、その疲弊したMのココロに気づいたように。

前進を決して辞めなかった彼女が、後悔ばかり抱えていたことは、彼女の最後の台詞に集約されている。

「私は、ひとつだけ正しいことをした」

今となっては、何がただひとつの正しいことだったのかはわからない。
ただ、実に多くの過ちと過ちとして受け止めた後悔を抱えていただろうことは推測できる。

自分では、この業界から足を洗うことは決意できなかったが、結果的にようやく重荷を下ろすことが出来たM。
正しいことが出来たという満足感とともに、その天命を全うできるなら、これに越したことはない。
だってそれこそ、彼女が命より大事なものをようやく手に入れられた瞬間かもしれないのだから。

モデルとなった女性初のMI5長官のステラ・リミントン は、テロを名目とする警察国家の行き過ぎを警告していた。
それこそ、CIAのグアンタナモのようなところまで、英国が踏み込まないように警告を発していたのだ。
国内の、そうした要職にありながらも、信念に基づく発言は曲げない。
ここにも、鉄の女がいる。

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「タフでクールで そしてヒューマンタッチ」Reblogger in Tokyo

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