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『野心のすすめ』 林真理子 レビュー 「イタさ」と向き合う

林真理子は嫌いだった。
著書を一冊も読む気にもなれず、これまで一冊も手にとったことはなかった。
読んでみて、この人を嫌いな理由がよくわかった。
それは、自分がこれまで正面から捉えることを避けていた「野心」というかもっとギラギラした欲を体中から発しているからだ。
昔はああだったけど、今はこうして成功したという成功者特有の物語もおなじみの展開ではある。
成功者は他人のネームバリューに頼らなくていいから、有名人との邂逅について話すことはないといいながら、そのような表現はアチコチに見られる。
成功してある種の層にたどり着いた人間が、その下に対して自慢話とお説教をしているふうでもある。
そしてその成功カタチは昔ながらのブランド志向にもとづく古臭いカタチ。
だから共感することはなかった。

それでも、この本は読むべきものだった。

伊集院静を読んでいる時のようなコトバにならない静かな救済は感じられない。
しかしその代わりに、読み進めながらふつふつとエネルギーがたぎるのを感じる。
いや、決して作者への怒りということではなく、なにかこうギラギラしたものが自分が被せた覆いの下で光を放ち出すのを感じる。
そもそも、普段は読まない彼女の本を手にとったのは「野心」というタイトルに惹かれたからだ。
もっとも自分に欠如しているもの。
見ないようにしていたもの。
ギラギラとみっともないほどに欲しがるのではなく、なんとなくスマートにそうしたものに覆いをかぶせ、そこそこのもので手を打ってきた自分。
そうしていよいよ残り時間を数え始め、満たされていないという現実をどうしても受け入れることが出来なくなった。
足りないものを見つけ出し、現状を変えようと思うなら、今まで読まなかった類の本を読むのが手っ取り早い。
こうして書店で「目があう」のも必然だろう。

足りないのは、身の程知らずにも欲しがること。
恥ずかしいまでの妄想力。
こうしたことにみっともないと背を向けて、手に入れたものは「止まっている不幸」だ。
こんなはずじゃないと思いたくないなら、その覆いをとって自分のみっともないくらい「イタい」ものに向きあわねばならない。
だから、彼女が嫌いだった理由がよくわかった。
自分のそこを刺激され、自分の「イタさ」に向きあわねばならないからだ。
鈴木おさむも言うように、夢を叶える最初の一歩は「イタさ」から。

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だから、彼女を嫌いな人ほど、あのギラギラした感じが苦手だという人ほど読むべきかもしれない。
そうした人達は、人生に必要な生臭さに目をつぶっているだけかもしれないのだから。

野心のすすめ (講談社現代新書)
林 真理子
講談社
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「タフでクールで そしてヒューマンタッチ」Reblogger in Tokyo

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